2011-06-08から1日間の記事一覧

宣長と源氏 二

『恋と女の日本文学』丸谷才一 著者の評論「恋と日本文学と本居宣長」で次のように言っている。失恋の経験が宣長に『源氏物語』を読み取る目を与えた。この物語は淫乱の書ではない。不倫を教え、あるいはそれを訓戒する書でもない。むしろ人生の最大の出来事…

読むことで書き直す

『小説の読み書き』佐藤正午 この人独特の言い回しが面白い。「文章を書くとき、人は書き直すという意味でその言葉を使っている」すなわち「推敲」ということになるのだろう。そして、読者が「読むことによってさらに小説は書き直される」とも述べている。こ…

辞書の裏

『国語辞書事件簿』石山茂利夫 『広辞林』(通り名・コージ林)漢語の見出し語に発音式仮名遣いを採り入れた。126144語収録。 『辞苑』新村出編。昭和10年刊。広辞苑の前身。コージ林をおさえ辞書界を席巻した。 『広辞苑』新村出編。長い間「国民的辞書」…

六十からの青春

『老楽力』外山滋比古 ウルマンの「青春」は初めの数行が特に有名である。 青春とは臆病さを退ける勇気 安きにつく気持ちを振り捨てる冒険心を意味する ときには、20歳の青年よりも60歳の人に青春がある 年を重ねただけでは人は老いない 理想を失うとき…

小督の里での文学的日記

『芭蕉紀行文集』岩波文庫 今も京都の郊外嵯峨にある落柿舎。門人去来の別荘であった。芭蕉は元禄4年4月18日から5月4日までここに滞留した16日間の日記である。古来風雅であるこの地に篭もった機会に、一種の文学的日記を書こうとした。嵐山松尾神社…

肩肘張らず

『にほん語観察ノート』井上ひさし 〈外来語の表記〉「モチベーション」と発音しても外国人に分からない。「モティヴェーション」と発音すると、「動機づけ」であることが分かるのではないか。 〈熟さない外来語より日本語を〉「スキーム」「コンセンサス」…

宣長と源氏 一

中公版日本の名著『本居宣長』 宣長の「源氏物語玉の小櫛」は「もののあわれ」論を唱えた評論として知られている。本書は西郷信綱の現代語訳として掲載されている。儒教・仏教的観点から好色を戒めるのではなく、恋する人の姿や心情を書いたもので、そこにも…

阿留辺幾夜宇和

『明恵』寺林峻 この小説は明恵上人の一代記である。明恵は鎌倉前期の華厳宗の僧。厳密に言えば僧籍にはなく、上人(聖)であった。紀州有田の生まれである。 この小説では幼名を薬師丸、京都の神護寺「明恵坊」で文覚の教えも受け修業を積む。 「早十三歳に…

私には失望は無縁だった

『あらすじで味わう昭和のベストセラー』井家上隆幸 一編のあらすじが本書では数ページにわたってくわしいので、ありきたりの粗筋ではなく、かなり細かいストーリーもわかる。多くは大衆文学である。 大佛次郎『鞍馬天狗』吉川英治『宮本武蔵』下村湖人『次…

祖父の句を読む

『虚子百句』稲畑汀子 人口に膾炙された虚子の名句中の名句を抜き出すと 遠山に日の当りたる枯野かな(明治33年、26歳) 桐一葉日当りながら落ちにけり(明治39年、32歳) 金亀子(こがねむし)擲つ闇の深さかな(明治41年、34歳) 春風や闘志い…

猪熊美術館にて

『カメラの前のモノローグ 埴谷雄高・猪熊弦一郎・武満徹』マリオ・A こういう貴重なインタビュー記録があったのかと驚かされる。もの言わぬ、言いたがらない前衛作家、真の(?)アーチストたちである。エポックメーキングの3人の芸術家の本音のところをち…

大塩平八郎

『鷗外の歴史小説』尾形仂 七作品の考察がなされているが、「大塩平八郎」だけにしぼってみよう。 鴎外が歴史小説「大塩平八郎」を書く資料にしたものに幸田成友著「大塩平八郎」がある。これは綿密詳細な歴史叙述になっている。鴎外はその記述順序を組み替…

幸あれ宇宙

『生きて死ぬ智慧』柳澤桂子 少し古い言葉かもしれませんが「逆転の発想」という印象を強く持ちました。 「初めに般若心経ありき」ではないのです。黒地に白字のネガ的活字で、「天の声」「宇宙の声」が浮き彫りにされているのです。世の常の漢字版に現代語…

青の感覚

『星と半月の海』川端裕人 清冽で、シンプルな文章の、テンポのよさに引き込まれる。 表題作は、ジンベエザメを飼育・観察する女性獣医を主人公としている。「星」と「半月」が二頭に名付けたニックネームであることが途中で分かる。「わたし(リョウコ)」…

仏陀の足跡

『21世紀 仏教への旅 インド編上』五木寛之 ブッダはダイナミックな歩く人、旅する人。生涯の大半を精力的に人々に語り続けた伝道者。インド仏教の資源の姿。インドではなぜ仏教は滅んだのか。ヒンドゥーの国。さまざまな不思議発見のレポート。 ブッダが…

終わりなき旅

『21世紀 仏教への旅 インド編下』五木寛之 一冊の文庫本を携えて、なおも旅を続けている。中村元訳「ブッダ最後の旅ー大パリニッパーナ経」(岩波文庫)である。 さあ、修行僧たちよ。お前たちに告げよう、「もろもろの事象は過ぎ去るものである。怠るこ…

「悲」の回復

『大河の一滴』五木寛之 文豪漱石の最後に到達した人生観は「則天去私」であった。平成の国民作家、人生の求道者・五木寛之は、「人はみな大河の一滴」であるという。この名文句が彼の人生観を象徴している。これが本書のタイトルになり、人口に膾炙されると…

深き淵より

『蓮如』五木寛之 父は本願寺第7世・存知、蓮如はその庶子。本戯曲は蓮如39歳から始まり、本願寺8代目法主になり、波瀾に富んだ中年を経て56歳の春までが描かれている。生涯に4人の妻と死別し、5人の妻を娶る。子は男13人、女14人生まれても早世…

時代には遅れよ

『正しく時代に遅れるために』有栖川有栖 タイトルのもつ効果を考えると、本書は意表を衝いたおもしろさがあり、ちょっと読んでみようかという気にさせられる。 まず、巻頭に挙げた「六段階の距離」の紹介…すべての人間は〈六段階の距離〉でつながっている。…

不二ひとつ

不二ひとつ埋みのこしてわかば哉 蕪村 富士山は『万葉集』で「不尽」、蕪村はこの句で「不二」と表記している。

6月8日 誕生日の花・花言葉・歌句・万葉歌

6月8日 誕生日の全国35万人の皆さん、おめでとうございます (拙句) 野ばらとはわらべ心に返る花 雅舟 6月8日 【花】 ノイバラ(バラ科) 【花言葉】 素朴なかわいらしさ 【短歌】 身を守るあおい棘もち野茨の素朴に白き花かたまりぬ 鳥海昭子 ノイ…

石の想像力

『空を引き寄せる石』蜂飼耳 「厄を割る石」なるものが、久しぶりに参った神社で、変貌を遂げていたのである。これまでは普通の庭石にすぎなかったのが、「ありがたい石」に格上げされていたらしい。素焼きの盃を取り、石に叩きつけて割る。呪いの厄割りであ…

自分なりの歩き遍路

『これがほんまの四国遍路』大野正義 本書の特長を次の4項目にしぼって、紹介しておきたい。 (1)眞念の功績を重視していること その著「四國邊路道指南」貞享4年(1687)刊行。宿泊所情報の懇切丁寧ぶりが図示されている。札所の固定化、普及に最大…