西行讃岐三野津 10首
敷き渡す月の氷を疑ひてひびの手まはる味鴨の群鳥
いかでわれ心の雲に塵すべき見る甲斐ありて月を眺めん
眺め居りて月の影にぞ世をば見る澄むも澄まぬもさなりけりとは
雲晴れて身に愁なき人のみぞさやかに月の影は見るべき
さのみやは袂に影を宿すべきよわし心よ月な眺めそ
月に恥ぢてさし出でられぬ心かな眺めむる袖に影の宿れば
露けきは憂き身の袖の癖なるを月見る咎に負せつるかな
心をば見る人毎に苦しめて何かは月の取り所なる
眺め来て月如何ばかり忍ばれんこの世し雲の外になりなば
何時か我この世の空を隔たらむ哀れ哀れと月を思ひて
☆仁安三年二月十五日 以降讃岐三野津から帰途に就いたと推定
この私説は誰も言っていません。私の仮説です。『山家集』を繙くと
三野津の最初の歌に続いてこの連作はここで詠まれたに違いありません。
私の『讃岐曼荼羅』と称する旧作小説の末尾に紹介しています。