高知の鹿持雅澄旧居訪問

その人とはその日初対面であった。数年前よりふとした機縁で文通はしていたが、その日高知駅に出迎えに来てくれてすぐタクシーで連れて来てもらっているのだった。私の父が生きていれば、これくらいの年齢であろうかと思われた。寒い日で、自らのマフラーをはずし、眠りから覚めた長男に頬かむりさせてくれたこの人は、満洲から帰れなかった祖父であったかもしれない。桂浜の坂本龍馬像は大き過ぎた。福井の里へ案内してくれた鹿持雅澄旧居跡を訪問。高知県立図書館では『萬葉集古義』稿本を閲覧させてもらった。万葉学者雅澄の端正な筆跡に生真面目な性格が現れていた。私の名の由来がここにあることを知っての訪問だけに気の引き締まる思いであった。(『無帽』160号 昭和52年2月刊)