紙碑(虚子句にちなんで)

【紙碑】という単語は普通の国語辞典には出ていない。『大辞林』には「世に知られていない物事や世に埋もれた人の生涯業績などを書いた文章」とある。一般に認められていない人、その作品を個人的に高く評価したものを大切にしたい。身の回りに埋もれたものの発掘ということである。例えば、我が郷土の限られた地域からも次の人、作品をあげておく。

『歳時記』に「遍路」を季語に取り上げてくれるよう懇望された俳人に村尾公羽という俳人がいた。高浜虚子編『新歳時記・花鳥諷詠』には公羽の二句「香煙に絶ゆることある遍路かな」「屋島寺や今日の遍路に風強し」が例句として載せられている。

 虚子が大正十四年五月、観音寺の一夜庵を訪れた。宗鑑の墓に供え花を用意していたが、供える前に琴弾八幡宮の方の裏道から参拝され、次の詠句になってしまった。

  宗鑑の墓に花なき涼しさよ  虚子   (句碑にするわけにはいかない)