燧灘「渚」百吟

=新年=初凪や島浦の波時に冴え

 

   「永遠の今」元旦の書初め

 

   明け初むる瀬戸内光る「和介健」

 

   平和世の新年迎へるまで生きたし

 

   永遠の新年波動迎へたし

 

   初詣安産祈願一方さん

 

   若菜摘む鳴川の瀬のさざめける

 

   若菜摘む村人に声掛けてゆく

 

   田舎にも正月の仕事地祀す

 

   門松の飾りの竹はこの丘に

 

   初烏水門の下より現れぬ

  

   宝船燧灘より来たりけり

 

   小舟にも注連飾りして山田川

 

   山よりも野に宿る幸初烏

 

   幸ひの住むてふ雲辺初詣

 

   この道は一茶の旅の初詣

 

   新潮の寄せては返す瀬戸の唄

 

   初漁の小舟エンジン心して

 

   福となす手品師コロナ海神に

 

   新潮の響きと香り瀬戸に充つ

 

=春=三豊野や霞の涯の雲辺寺

 

   春分や三豊女神に逢ひにゆく

 

   干拓地まづ草雲雀に迎ヘらる

 

   雉啼いて姿も見せる大胆さ

 

   天性か雉も鳴かずば撃たれまいに

 

   浜防風食べ頃失し佇ち尽くす

 

   揚げ雲雀撮らせてくれる辛うじて

 

   春濤や裏切られてもなほ見放さず

 

   蛤掻き競ひし昔潮干狩

 

   満干を気にせし昔潮干潟

 

   蛤も浅蜊も絶滅郷里の浜 

 

   春濤や海老跳ね上がる岩の上(虚子・伊吹島)

 

   春潮の果てなる島を近づけて(汀子)

 

   共鳴する一人あらば足る春野かな

 

   世の些事を埋め尽して春の雪

 

   道の辺ノ雀の豌豆誇りかに

 

   天からの祟りおそれず春の雪

 

   大望を抱け葉陰のせせり蝶

 

   夢は枯野それより若葉の野を駆けむ

 

   大方は遍路姿の旅人よ   

=夏=三段田たちまち植え付け干拓

 

   夏茸殿様飛蝗しゃしゃり出て

 

   燧灘浜辺どこにも浜撫子

 

   浜街道浜昼顔に目を止めむ

 

   水田を居場所と定め白鷺は

 

   浜木綿や万葉心衰へず

 

   浜抂や枯れ衰へるすべ知らず

 

   浜に命求め生き延び浜大根

 

   海猫や個性埋没夾竹桃

 

   夏燕我が世のっとる干拓

 

   夏草や干拓の野の無尽蔵

 

   青鷺は王の風格干拓

 

   鷺一羽残して夏の川暮るる

 

   青鷺や孤高に生きる雅舟翁

 

   どこまでも乙女ら沖へ歩み入る

 

   夏痩せや遠き船音うつろにて

 

   土用波干拓堤防寄せ付けず

 

   油断して夏雲他所に行かせたり

 

   満洲の短き夏や父遥か

 

   群雀流し去りたる夏嵐

 

=秋=三段田たちまち稲刈り干拓

 

   コンバインこの恐ろしき刈り取り機

 

   農繁期苦労はせずに秋の空

 

   稲の香も人の匂ひもなき干拓

 

   遊水池僅かに秋気残りをり

 

   椋鳥や天に向かって言ふことあり

 

   大瀬戸や人を呼ぶなら秋の暮れ

 

   忠敬と秋の渚をあゆむべし

 

   高潮の残し去りたる砂絵かな

 

   我人生帰燕仲間に見放され  

 

   名月や一夜百吟で驚かす

 

   秋怒涛破天荒なる情死あり

 

   桐は実を緑に結び姉嫁ぐ

 

   潮風にカイトサーフィン走らす秋

 

   野葡萄の彩り様々に魅せられて

 

   写真消え秋は心に焼き付くべし

 

   芋の葉や生きる命の脈打てり

 

   灸花へくそ屑とか万葉名

 

   遠野星芭蕉は讃岐訪れず

 

   医も薬も頼らず生きて秋の風

 

=冬=外人の手を借りレタスハウス哉

 

   ☆瀬戸夕陽寒さ厭はず渚まで

 

   瀬戸内の人も穏やか冬渚

 

   誠実に生きて瀬戸内渚に果て

 

   瀬戸内は寒さものともせず生きて

 

   大方は愚かなる人冬仕舞ひ

 

   いつの間にか死ぬ人多し冬怒涛

 

   冬渚テトラポットの荒療治

 

   冬波や夏のサンダル浮き沈み

 

       大方はおしゃべり歌人冬怒涛

 

   凍てつくも立ち居姿の鷺凛と

 

   都鳥餌づけて翁川の主

 

   恵まれぬ人生終り冬の虹

 

   カイト舞ふ大瀬戸一の宮の天

 

   パン屑がねらひの鷗冬の川

 

   誇りある落葉が演ず剣舞かな

 

   三人の叔父の軍人墓地慰霊

 

   生前を知らぬ墓参や年の暮れ

 

   待春の満州の地に凍え死ぬ

 

   部下還しえず異国の雪に消ゆ