万葉集防人の歌20首選

万葉防人の歌  全 118 首

第7巻 2 首 第13巻 2 首 第14巻 5 首 第20巻 109 首

4322 我が妻はいたく恋ひらし飲む水に影さへ見えてよに忘られず

4323 時々の花は咲けども何すれぞ母とふ花の咲き出来ずけむ

4325 父母も花にもがもや草枕旅は行くとも捧ごて行かむ

4326 父母が殿の後方のももよ草百代いでませ我が来るまで

4327 我が妻も絵に描き取らむ暇もが旅行く我は見つつ偲はむ

4328 大君の命畏み磯に触り海原渡る父母を置きて

4337 水鳥の立ちの急ぎに父母に物言はず来にて今ぞ悔しき

4341 橘の美袁利の里に父を置きて道の長道は行きかてぬかも

4342 真木柱ほめて造れる殿のごといませ母刀自面変はりせず

4346 父母が頭掻き撫で幸くあれて言ひし言葉ぜ忘れかねつる

4352 道の辺の茨のうれに延ほ豆のからまる君をはかれか行かむ

4356 我が母の袖もち撫でて我がからに泣きし心を忘らえぬかも

4369 筑波嶺のさ百合の花の夜床にも愛しけ妹ぞ昼もかなしけ

4373 今日よりは返り見なくて大君の醜の御楯と出で立つ我は…

4375 松の木の並みたる見れば家人の我れを見送ると立たりしもころ

4376 旅行きに行くと知らずて母父に言申さずて今ぞ悔しき

4382 ふたほがみ悪しけ人なりあたゆまひ我がする時に防人にさす

4399 海原に霞たなびき鶴が音の悲しき宵は国辺し思ほゆ

4401 唐衣裾に取り付き泣く子らを置きてぞ来のや母なしにして

4402 ちはやぶる神の御坂に幣奉り斎ふ命は母父ががため

4414 大君の命畏み愛しけ真子が手離り島伝ひ行く

4420 草枕旅の丸寝の紐絶えば我が手と付けろこれの針持し

4425 防人に行くは誰が背と問ふ人を見るが羨しさもの思ひもせず