愛とは

 愛とは、心の傾斜にほかならぬと誰が言ったのか。その斜面に立っているのは、自然を、人を、愛することにおいて過剰でありすぎた青年の姿であった。現実の傾斜、時代の傾斜は、遥かな地平とはげしく交叉し、青春の苦闘は空しく非運のうちに終りを告げようとしていた。それでもなお、彼は、自然を、人を愛することをやめないのである。これは「しっかり掴んでいるその根は何か?」という「荒地」的な問いに対する見事な回答であった。(代表作品「勾配」ほか掲載『森川義信詩集』解説・鮎川信夫)