小豆嶋紀行

 小豆嶋紀行(抄)  松山玖也  寛文七年(1667)作

明れは九日、土庄と云處に神事なり。相撲なと見んとて行。發句は、

  穂にほ咲て無く富草や此との庄

暮れは淵崎と云所に行。夜會の茶の湯あり。あるし情たつ人にて、一折と催されて重陽の祝はかりを申侍ける。

  いく世つもる菊の淵崎波の露

短冊なととり出て、書付へきよし有けれは、人々に書てあたふ。

  魚躍る淵崎ふかし霧の海

  なけ込し玉や淵崎浪の月

あすは小海と云所より舟の便ありて、帰路に趣かんと云に、又雨ふる。人々名残りおしみて、此雨ふつか三日やますしてをありね。さあらんにはすかすか共え出たゝしなと云も、うとましきものから、かつはうれし。見ていなんまめ名月も小豆島

となくさめて云りけれは、人々心ゆきかほなり、さはいーと明方より雨やみ風よしとて、駕籠にかゝれて来るに、右の方窓嶽とて、(略)

  窓たけは青いかよいを秋のいろ

馬越と云は、岩ほ高き坂のみにて、下部共も行なやみけれは、

  馬越や駕籠てもかゝり秋の雨  (略)

  上り見よ月の御舟の屋形崎

  絵の上手かくこそは見めうらの秋