藤村の『落梅集』

島崎藤村の詩文集。明治34年(1901)刊。「千曲川旅情の歌」「小諸なる古城のほとり」など、小諸時代の恋愛詩と旅情をうたう自然詩を収める。
 
 小諸なる古城のほとり

小諸なる古城のほとり
雲白く遊子悲しむ
緑なすはこべは萌えず 
若草も藉くによしなし
しろがねの衾の岡辺
日に溶けて淡雪流る

あたゝかき光はあれど
野に満つる香も知らず
浅くのみ春は霞みて
麦の色はづかに青し
旅人の群はいくつか
畠中の道を急ぎぬ

暮れ行けば浅間も見えず
歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の
岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飲みて
草枕しばし慰む
 
「梅」には「花梅」と「実梅」があり、観賞用の花と賞味用の実とは、そのつど使い分ける。普通は実「梅」で、「梅の花」「梅花」と「花」を付す。「落花」の情緒・情趣は詩歌的。