百名橋

『日本百名橋』松村博
 
 多くの人の投票があれば、百選に少しは蓋然性が得られるかもしれにいが、本書は一個人の選んだ「百名橋」である。しかし、著者はこの道一途に過ごした専門家なので、妥当な選び方をしていると思いたい。「まえがき」で「一県から少なくとも一橋を選ぶ」ことにこだわって「選定基準にばらつきが生じている」とも反省されているようだ。
 選定基準、その観点には次のようなものが考えられる。「架橋が強く望まれた橋」「技術的に優れた橋」「姿・形の美しい橋」「周辺の優れた環境に調和した橋」「利用者に親しまれている橋」「古い歴史や伝承をもった橋」が考えられる。本書は最後の基準を重視して選んでいる。したがって、観点が異なると、不満が出て来る可能性がある。特に各県に問い合わせ、その県を代表する橋を答えてもらっていれば、かなり一般に通用しようが、それはしていないようだ。誰でもまず自分のふるさとの橋には愛着がある。それが選ばれてここに掲載されていれば、うれしいだろう。
 わがふるさと観音寺市の「三架橋」がたまたま選ばれていて、俳諧の祖山崎宗鑑の「かし夜ぎの袖をや霜にはし姫御」まで紹介してくれている。この「はし姫」は京都宇治橋の「橋姫」伝説をふまえていると本書にはかかれていないが、それはスペースがないからだろう。それにしても、「この著者は見る眼があるなあ」と感心し、納得している次第である。
 隣の阿波徳島の「祖谷かずら橋」ならば、全国に知られていて、広く納得してもらえようが、さて香川県観音寺市の「三連の太鼓橋」と紹介されて、今の橋は太鼓橋ではないので、誤解のないように。手すりより上にアーチ型のコンクリートで造られている。写真があるので、それはそれでいいのだが。
 各県在住の人からはたして各県の実状に合うか、反応があっていいのではなかろうか。そうあってほしいとひそかに祈っている。