私には失望は無縁だった

『あらすじで味わう昭和のベストセラー』井家上隆幸
 
 一編のあらすじが本書では数ページにわたってくわしいので、ありきたりの粗筋ではなく、かなり細かいストーリーもわかる。多くは大衆文学である。
 大佛次郎鞍馬天狗吉川英治宮本武蔵下村湖人次郎物語田村泰次郎肉体の門石坂洋次郎青い山脈菊田一夫『君の名は』山本周五郎『樅ノ木は残った』松本清張砂の器水上勉飢餓海峡三浦綾子『氷点』など
 本書では取り上げること少ない純文学・芥川賞作家柴田翔「されどわれらが日々ー』…昭和30年の六全協スターリン批判で揺れ動いた時代を背景に、方向を失った若者たちの青春をリリカルに描く。自殺する者、破局を迎える恋人たち…。一つの時代をどう生きるかが問われている作品。「私の前にあったのは、継起する事実だけだった。私は、事実から、世界とは何かを学んだ。私には失望は無縁だった」