宣長と源氏 一

中公版日本の名著『本居宣長
 
 宣長の「源氏物語玉の小櫛」は「もののあわれ」論を唱えた評論として知られている。本書は西郷信綱の現代語訳として掲載されている。儒教・仏教的観点から好色を戒めるのではなく、恋する人の姿や心情を書いたもので、そこにもののあわれを感じ取ろうとするものである。『源氏物語』はとりわけ人の感ずべき種々の相をもらさず書きあらわして「あはれ」を見せた作品である。世の中のもののあわれの一切を書きあつめ、読者に感銘を与えようとして作られたものであるが、恋というものを抜きにしては考えられない。「この物語の本意を、勧善懲悪といい、とりわけ好色の戒めだなどというのは、ひどく無理な話」だと宣長はいう。