震災で出て来た自筆本

芭蕉自筆「奥の細道」の謎』上野洋三
 
 岩波の影印本に続いて、自筆本の問題点を掘り下げた、かなり専門的な研究書ではあるが、芭蕉奥の細道に関心のある人ならば、煩を厭わず読んでいくと、その追究心に敬服するだろう。
 自筆本10641字の総点検をしている。全文の写真コピーを元に1文字ずつ切り分ける。解体して一枚ずつ撮影された自筆本にする。ある種の文字群に一貫した同一人物の風貌を描く。そして、書き癖の検討に入る。全体から異様な字体の漢字を総チェックする。最終的な筆跡判定の結論を出す。
 次に、自筆本の書写を芭蕉から依頼された人物についての考察である。「曽良本」の筆者が利牛であり、芭蕉曽良ではありえぬ理由も指摘している。簡略に著者の系図を記せば、「自筆本」(芭蕉筆)…曽良本(利牛筆)+書込(芭蕉筆)…柿衛本(素龍筆)、西村本(素龍筆)となる。残された疑問を解く検証作業に期待がかかる。