死の彼方へ

『最勝王』服部真澄
 あの空海を解きほぐし、「読み物」意識で書かれたサスペンス的時代小説である。
 若い空海が、「秘密宗」を知ることになったいきさつや、伊予親王やその兄弟たちが巻き込まれる王権を巡る陰謀など、奈良から平安にかけての仏教や政治などを描いた歴史小説
 赤万呂の過去、殺人事件や船大工の行方不明事件など 赤万呂の人物像が強烈で、主役の真魚(教海)が影が薄いほど。 時代の最先端への憧れが、唐への渡海、そして人を救う道として、儒教道教、仏教の三教があるが、やはり仏教を第一義とする。四天王像を見事に描き出す阿刀赤万呂。経師の一族の末席に連なる人物で、真魚のおじとは姻戚関係にあたる男。
 上京した真魚は、桓武天皇の皇子・伊予親王の家庭教師であるおじ・阿刀大足から、仏教における守護神・四天王のように親王をお守りするようにと命じられる。伝わった「秘密宗」の奥義を説く経を、赤万呂と共に追い求める。4章以降は空海伊予親王の関わりの謎も明らかになってくる。
 空海の戒めのことば「生れ生れ生れ生れて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し」すなわち、何も学ぶことがなければ、真実の一つも得られないというのである。
 繰り返される生と死の中から「魂の解放」を願わざるをえないのである。