俳祖と俳聖

俳諧史考』尾形 仂
 文芸ジャンルとしての連歌俳諧の専門書であるが、一般の読者にも分かり易く書かれている。題名からして少し専門的な「狂言を通して見た初期俳諧」「宗鑑と守武」「宗因と伊勢」「軽口の俳諧」「蕉風への展開」「芭蕉と『埋木』」「蕉風と元禄俳壇」などで論じられている。

 例えば、「宗鑑と守武」は俳諧文学独立機運をもちらす大きな歴史的役割を演じた。通説によれば、宗鑑の『犬筑波』には、短連歌の伝統を引く、徹底した滑稽さ、卑俗さ、自由さがあるのに対して、『守武千句』に見られる俳諧観にはなお長連歌の伝統をもつ優美さ、高雅さ、形式的拘束性がある。江戸時代になって談林・貞門の両派がそれぞれ守武・宗鑑の二人を権輿としながらも、貞門ではかれらの風を共に同意・用付・正体なき句体の風として詩斥け、逆に談林はそれを無拘束な滑稽性を発揮したものとして尊重した。

 芭蕉の風雅の世界は、庶民的現実の崩壊を逆手にとることによって築かれたと言ってもよい。肯定的な基盤にささえられた談林俳諧の朗笑的庶民性を超克する、より高次の人生的庶民詩の誕生を意味するものであった。そして、「軽み」こそは芭蕉が景気の真を把握すべく最後に到達した指導理念であり、蕉風の到達点であった。談林俳諧の否定から始まった元禄俳壇の歩みの、総決算でもあった。