文庫で読む新撰犬筑波集・誹諧連歌抄

『犬つくば集』鈴木 棠三・校注
 連歌という名を聞いただけで、敬遠される方が多い。俳句・短歌人口より更に少ないはずである。はっきり言って「連歌連句は滅んだ」のだ。
 更に、品性のない「犬つくば」という山崎宗鑑の作品など、千人に一人くらいしか振り向かないであろう。その再発掘をねらう書ではない。もしも、文学史俳諧史)に残っているこの作品・編者を知りたくなったら、本書を繙けばいい。

 俳諧連歌とは、俳諧味をねらった連歌、すなわち笑いの連歌ということである。言い捨てのようなものである。
 宗鑑に関する伝記的事実については、はなはだ明確性を欠き、曖昧模糊たる部分が多い。
宗鑑の晩年は讃岐国観音寺町の興昌寺の側に一夜庵を結んで、ここで命終したとも言われる。
宗鑑は実力はあったが、身分の低い人で、そのために歴史の表面に堂々と現れなかったのであろう。
 宗鑑が『犬つくば』の流布・伝存に大きく参与している事実は肯定しなければならないが、その作品一句一句が宗鑑作であるとはとても断定できない。
『新撰犬筑波集』の冒頭は次の短連歌になっているのは、比較的知られているはずである。
   霞の衣すそは濡れけり
  佐保姫の春立ちながらしとをして
 宗鑑の文学史的功績として「発句の独立」「俳句形式の始祖」と言われる。本書から数句抜き出しておきたい。卑属・猥雑を厭わず、言い放ってはばからない豪放さを汲み取りたい。
   七夕はよもさはあらじすばり星
   しぶ色に染むるは柿のもみぢかな
   山の端に月はいでくりむく夜かな
   姫松の下葉や露のそめふぐり
   猿の尻こがらししらぬもみぢかな