家持の叔母

坂上郎女 人と作品』中西進
(大伴)坂上郎女は万葉女流歌人で最も多く84首の歌が載せられている。1位・大伴家、2位・柿本人麿に次いで3位である。その数にもかかわらず、知名度は低い。著者は万葉の歌は女歌から始まり、女歌に終わるという考えを早くから持っている。そもそも歌は女歌が正統だったとも言っている。
 彼女は13歳頃結婚、破綻、恋愛を重ね、後独り身で世の中のことを歌う。「まるで恋愛短編小説を書くように、恋歌を詠んだ」という。また、この人に「秋の小歌集」のようなものがあったのではないかと推測される。
 家系と出生(家持の叔母)、在京時代、太宰府時代、帰京後の生涯を分担執筆してそれぞれの時代の秀歌を鑑賞するという念の入った本書の構成になっている。
 著者の推賞する歌は…

  恋ひ恋ひてあへる時だに愛(うるは)しき言尽くしてよ長くと思はば(661)

坂上郎女の歌の中でも、私の最も好きな歌のひとつである。のびやかな律調のなかに揺らぐ女こころとかすかな不安、哀愁が影を曳いており、まことに現代的で、あたかもシャンソンを聴くような快さがある」