軍国主義に反対だった戦後宰相

『熱血「ワンマン」宰相 吉田茂』老川 芳明
 時が経っても、歴史に残る昭和の宰相として、筆頭に挙げられるであろう「吉田茂」…ビジュアル偉人伝シリーズ第一回配本になっている。戦後日本を建て直した、あの時代を知らない者でも、語り草には、熱血「ワンマン」として必ず引き合いに出されるので、周知のことには属する。そこのところを含め、10章にわたって生涯の起伏を浮き彫りにしているのが本書である。
 実父は、剛胆な「いごっそう」土佐人竹内綱。養父は英国に密航したこともある吉田健三。二人の父から異なる「贈り物」を授けられた。さまざまな学校を経て、帝大から外交官へ、白馬に乗って外務省に出勤。領事時代に本省の決定に逆らって、アメリカ駐在を棒に振って、またしても中国へ飛ばされる。外務次官を射止めたものの、外相に嫌われて、イタリア大使に。
 戦中時代は、反軍部で、外務省退官、ひそかに和平工作に乗り出す。それが発覚、憲兵隊に逮捕される。「バラにつく虫は退治できても、日本についた軍国主義という害虫はなかなか退治できない」とつぶやく。戦後こうも言う「陸軍監獄に入ったおかげで総理大臣になれたのだから、損はしていませんよ」
 戦後処理内閣の外務大臣に起用された吉田茂は、追放された鳩山一郎に代わって首相の座につく。吉田自由党は総選挙で第二党に転落。社会党からの連立要請を拒絶し、野に下る。
 その後、体制を立て直し、強力な指導力のもと、第二次、第三次吉田茂ワンマン時代が続く。そして、想定外の「バカヤロー解散」で七年二ヶ月の政権に幕。
 政界引退後も茂が隠棲した大磯に訪問客は絶えることがなかったという。
 本書に載せられた貴重な写真はそのまま昭和の歴史を語る。その中でも巻末に「昭和天皇から贈られた鳩杖」の大写し写真が印象的である。