寺田寅彦は明治31年に夏目漱石に入門し、三年間熱心な作句期間であった.漱石が教師をしていた熊本第五高等学校時代である。
明月に琴弾の祠に詣でけり 原句
琴弾の祠の上や今日の月 添削句
四十未だ家をなさゞる歳の暮 原句
四十にして未だ家をなさず歳の暮 添削句
長き夜の鼠文穀食ひ散らす 原句
文殻を鼠ひき行く夜長かな 添削句
雨催ひの空や花火の茂くなる 原句
雨ふらんとして連りに揚る花火かな 添削句
冬枯れの堤の柴や燃えて居る 原句
冬枯や乞食火を炊く土手の上 添削句
是より右奥の院道積む落葉 原句
積む落葉是より左奥の院 添削句
古絵馬の上につもりし落葉かな 原句
絵馬堂の内に舞ひ込む落葉かな 添削句
卵塔二基苔滑にして落椿 原句
苔の上に椿落ちけり五重塔 添削句
門に桃村医種痘と貼札す 原句
桃の門種痘と書て張札す 添削句
垂るゝ柳家鴨集うて小雨降る 原句
雨の家鴨柳の下につどひけり 添削句