いちはつの花咲きむいでゝ我目には今年ばかりの春行かんとす 正岡子規
つけ捨てし野火の烟のあかあかと見えゆく頃ぞ山はかなしき 尾上柴舟
鉦鳴らし信濃の国を行き行かばありしながらの母見るらむか 窪田空穂
白埴の甕こそよけれ霧ながら朝はつめたき水くみにけり 長塚 節
春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕べ 北原白秋
やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに 石川啄木
白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ 若山牧水
死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞こゆる 斎藤茂吉
葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり 釈 迢空
燐寸するつかのま海に霧深し身捨つるほどの祖国はありや 寺山修司