近代愛唱短歌10首

いちはつの花咲きむいでゝ我目には今年ばかりの春行かんとす  正岡子規

つけ捨てし野火の烟のあかあかと見えゆく頃ぞ山はかなしき   尾上柴舟 

鉦鳴らし信濃の国を行き行かばありしながらの母見るらむか   窪田空穂

白埴の甕こそよけれ霧ながら朝はつめたき水くみにけり     長塚 節

春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕べ   北原白秋

やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに    石川啄木

白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ     若山牧水

死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞こゆる    斎藤茂吉

葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり 釈 迢空

燐寸するつかのま海に霧深し身捨つるほどの祖国はありや    寺山修司