花は盛りに月はくまなきをのみ見るものではない
閉じ籠り春の行方を知らぬのもまたしみじみ情け深い
咲きぬべきほどの梢 散りしおれた庭なども見どころ多い
時季遅れの花見に行ったのにすでに散り過ぎたのもいい
融通の利かないかたくなな人はもう見どころなしと言う
よろずのことも初め終りこそおもむきがあるものだ
男女も一途に相見相会ったのをいいと言うことはない
会わでやみにし憂さ思いあだなる契りもまたこれも人生
長き夜をひとり明かし遠き雲居を思いやるのもこれまたいい
暁近くなって月の出を待ち得たるのもこれまた心深い
深き山の杉の梢に見えた影しぐれたるむら雲隠れもいい
またなくあわれなるもの満ち足りぬものの中にある