徒然草の美学 (10首歌)

花は盛りに月はくまなきをのみ見るものではない

閉じ籠り春の行方を知らぬのもまたしみじみ情け深い

咲きぬべきほどの梢 散りしおれた庭なども見どころ多い

時季遅れの花見に行ったのにすでに散り過ぎたのもいい

融通の利かないかたくなな人はもう見どころなしと言う

よろずのことも初め終りこそおもむきがあるものだ

男女も一途に相見相会ったのをいいと言うことはない

会わでやみにし憂さ思いあだなる契りもまたこれも人生

長き夜をひとり明かし遠き雲居を思いやるのもこれまたいい

暁近くなって月の出を待ち得たるのもこれまた心深い

深き山の杉の梢に見えた影しぐれたるむら雲隠れもいい

またなくあわれなるもの満ち足りぬものの中にある