元禄の芭蕉以来、その全発句に脇を付けた人はあるのだろうか。
本書の無名俳人剣持雅舟はその無謀を試みている。
本来の連句での脇は発句に寄り添いながらも展開してゆかねばなるまいが、
本編ではやや発句の解説気味になっているのが惜しい。
それでも、900句を越える【対話】こと前句付けは意欲的で見逃せない。
なにゆえかかる発想から芭蕉その人、その句に向かい合おうとしたのだろうか。
それは著者の亡父が芭蕉の「吾生前の句皆辞世の句ならざるはなし」と遺言した
その心に沿って戦後70余年にして親不孝の罪滅ぼしに成した作品である。