『この子を残して』より

  私がやっぱり眠ったふりをしていると、カヤノは落ち着いて、ほほをくっつけている。ほほは段々あたたかくなった。何か人に知られたくない小さな宝物をこっそり楽しむように、カヤノは小声で、お父さん「お父さん」といった。それは私を呼んでいるのではなく、この子の小さな胸におしこめられていた思いがかすかに漏れたのであった。」(永井 隆著「この子を残して」より)