『昭和萬葉集』より10首

  講談社刊『昭和萬葉集』より10首~香川県~ 

生きるため身を削る人間のさまにして島細るまで石切り出せり 中河幹子 明28~悲母

戦場よりのがれこし女が肌にせる金貨のひとつ何まもるための金 香川進 明43~印度の門

島へかへる船待つ女らのおほかたは病みゐて大き火鉢をかこむ 真鍋綾子 大2 ~夜の橋

ことば透くごとき抽象を交へたる告白として若き死者の書  竹内邦雄 大10~幻としての旅

忽然と夫の背に出づ赤斑を母にも告げず夏は終りつ     岡本典子 昭3~塔

明けながら白くけぶれる小さき街一夜勤めし暁に見つ    横山代枝乃 昭10~電電

甦る記憶はつねにうつむきて戦後に荒地を拓きゆく兄    玉井清弘 昭15~橄欖

夜汽車にくるひとつ幻まぎれなく子にしてわれの頭を叩く  井上正一 昭14~ 冬の稜線

終りなき鉄路疾走の最後尾われが好みてつく席にして    東淳子 昭14~あしかび

たおされし椅子も秩序のなかにあり人さりて夜の野外音楽堂 造酒広秋 昭24~まひる