昭和年元年から半世紀にわたる激動の時代の短歌を、時代を追って分類、配列した大歌集。収録の基準も『万葉集』にならい、天皇の御製から一般人に至るまでの短歌5万首が掲載されている。昭和50年間の時代変動とその時々の日本人の生活感情を記録した『昭和萬葉集』は永遠に輝く金字塔であること間違いない。
独断と偏見で自分好みで10首抜き出してみた。
壕に寝て壕に目覚めし戦の日に妊れりわれは女ゆゑ 真鍋綾子 大正2~
すでに亡き父への葉書一枚もち冬田を越えて来し郵便夫 寺山修司 昭和10~
涙にじむ連想一つ彼ら清く学徒出陣の今日のごとき群 近藤芳美 大正2~
この破壊むだにすまじと熱おびて吾に憚らず壮き教授は 玉尾延忠 明治36~
意思表示せまり声なきこえを背にただ掌の中にマッチ擦るのみ 岸上大作 昭14~
倒れ伏す女子学生の肉むらを蹴りやまざりし彼奴は何者 岡野弘彦 大正13~
わが生を継ぐ者はなし暁の森にせめぎて夏黒き蝶 馬場あき子 昭和3~
夜汽車にくるひとつ幻まぎれなく子にしてわれの頭を叩く 井上正一 昭和14~
冤罪の若くチャンギ―の獄に死にき嘆きは相寄る木村君の上に 竹内邦雄 大正10~
遠き世の人麿の道は知りがたし茂吉の過ぎし跡を今日は行く 土屋文明 明治23~