はたらけどはたらけど猶わが暮らし楽にならざりぢつと手を見る
人がみな家を持つてふかなしみよ墓に入るごとくかへりて眠る
わが抱く思想はすべて金なきに因するごとし秋の風吹く
石をもて追はるるごとくふるさとを出でしかなしみ消ゆる時なし
誰そ我にピストルにても撃てよかし伊藤のごとく死にて見せなむ
「石川はふびんな奴だ」ときにかう自分で言ひて、かなしみてみる。
話しかけて返事のなきによく見ればむ、泣いてゐたりき、隣りの患者。
呼吸すれば、胸の中にて音あり。凩よりもさびしきその音!
やまひ癒えず、死なず、日毎に心のみ険しくなれる七八月かな。
あてもなき金などを待つ思ひかな。寝つ起きつして、今日も暮らしたり。