芥川龍之介の名作短編「蜜柑」

 

  小娘が窓を開けて見送りに来た弟たちを労うために五六個の蜜柑を車窓から勢いよく投げてやる。 その蜜柑が、空に浮かび上がり、そして⋯

 不可解な、下等な、退屈な」人生に「云いようのない疲労と倦怠」を感じている「私」は、横須賀駅で汽車が発車するのをぼんやりと待っていた。そこへ発車寸前になって、醜い田舎者の娘が飛び込んでくる。「私」はこの娘が不可解で下等で退屈な世の中を象徴しているように感じ、快く思わなかったが、汽車の走っている途中でこの娘から見送りの子供たちに向かって、窓から色鮮やかな蜜柑を投げるのを見て「私」は不可解な人生に対する疲労と倦怠を僅かに忘れることができるようになるのだった。爽やかで快い印象を残す名作短編である。