春の魚 (10句)

洗ひたる花烏賊(はないか)墨をすこし吐き   高浜虚子

国後へ突き出す鱒(ます)の定置網       山口誓子

紀の海の鰆(さわら)走りの波疾し       山川喜八

並べ干す鰈(かれい)の上の置手紙       吉屋信子

干し上げて鱵(さより)に色の生れたる     後藤比佐夫

磯魚の笠子(かさご)もあかし山椿       水原秋櫻子

差し上げて海女の手にある栄螺(さざえ)かな  巻野南風

水軍の島の栄えや桜海老(さくらえび)     黒岩松風

引き絞る網の渦燃ゆ蛍烏賊(ほたるいか)    大場美夜子

蛤(はまぐり)の一串辛き空の色        飯田龍太