石の想像力

『空を引き寄せる石』蜂飼耳
 
「厄を割る石」なるものが、久しぶりに参った神社で、変貌を遂げていたのである。これまでは普通の庭石にすぎなかったのが、「ありがたい石」に格上げされていたらしい。素焼きの盃を取り、石に叩きつけて割る。呪いの厄割りである。壊して気分がさっぱりになる。初穂料として百円置くことになっている。罰が当たるかどうか知らない。これまで、そこにのんびりしていた石が「石は終日ちぢこまり、伸び伸びしたところがないので、もはや石らしくない」というような感情移入した表現が見受けられて面白い。以上、「石の変身」と文題を付けているエッセイのまとめである。
 さて、表題作は「空を引き寄せる石」の分量は僅か1ページにすぎない。「旅先でも、そうでなくても、つい石を拾ってしまう」と書き出し。机の上には、文鎮のような石がたくさんたまっているという。屋外に捨てれば、その瞬間から文鎮ではなくなるものである。いつかは雨や風の中にもどっていく石を手に包むと温かくなる。そんな他愛もないことが書かれているようだが、ここで一つ読み落としてはならないことがある。神話のことで「最初の人間は神がバナナと石とどちらを選ぶか問われたとき、永遠の命を得る石を選ばなかったがためにはかない命になったという。「存在の不思議」を石に感じていて、上掲の「石の変身」と一対のエッセイとして読み取るべきテーマを含み、哲学を感じさせる好エッセイーである。