沈黙の眼差しのにほひか影のにほひはるかなるかな後ろ姿は
いつ会ひても夢踏みにじる一言あり髪一筋のにほひに如かず
荒鷲の嘴にからまる疾風のにほひのありてまた別れゆく
火の中に月を隠せる落葉のにほひ忘却の塔にふりかかりつつ
窓より窓に咲いて散りゆく薄墨色の風のほひの深々として
時の流れ越えてどこまで手をつなぎいつか離れる幻の川
欲情の裳裾に吠えてとらえどなき生まれ出でざる胎児のにほひ
沈黙の眼差しのにほひ影のにほひ形なきものみなすがすがし
死にさそふ蘭の怪花のにほひ立つ夕べは秘所に独りあるべし
色香なるにほひは消えてその跡に人の命の玉響あらむ