にほひ(10首歌)

沈黙の眼差しのにほひか影のにほひはるかなるかな後ろ姿は

いつ会ひても夢踏みにじる一言あり髪一筋のにほひに如かず

荒鷲の嘴にからまる疾風のにほひのありてまた別れゆく

火の中に月を隠せる落葉のにほひ忘却の塔にふりかかりつつ

窓より窓に咲いて散りゆく薄墨色の風のほひの深々として

時の流れ越えてどこまで手をつなぎいつか離れる幻の川

欲情の裳裾に吠えてとらえどなき生まれ出でざる胎児のにほひ

沈黙の眼差しのにほひ影のにほひ形なきものみなすがすがし

死にさそふ蘭の怪花のにほひ立つ夕べは秘所に独りあるべし

色香なるにほひは消えてその跡に人の命の玉響あらむ

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