【父子で刻んだ芭蕉句碑】

 

 我が家の屋敷にちょっとした庭石があって、それには何も刻まれていなかったのだが、ふと思いついて、芭蕉の句碑にした。昭和五十八年歳末だった。

  堂飛人と我名よは礼無初しく連     (たび人と我名呼ばれむ初しぐれ)  芭蕉

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                      『笈の小文』の旅に出る時の句

この文字を草書体にくずした芭蕉の直筆を模写した書体で彫り込む。鑿と金槌で石屋のする仕事である。馴れない手つきながら、軟らかい花崗岩に手を焼くことはなかった。一ヵ月かかってなんとか仕上げることができ、家族四人で除幕式も行った。某新聞社が写真入りで大きく取り上げてくれた。また、芭蕉の故里伊賀上野に家族旅行するくらいなので年期は入っている。人生とは旅に似て、旅に宿命づけられている。その情念を一句に仕立てたこの句には人生=旅という情念がほとばしり出ていて、人間的でありかつ超俗的でもある。