乳母車・紫陽花色・三好達治

乳母車」は三好達治が初めて発表した詩5篇のひとつ。 発表後すぐに詩人百田宗治に激賞された。

 乳母車   三好達治

母よ――
淡くかなしきもののふるなり
紫陽花あぢさゐいろのもののふるなり
はてしなき並樹なみきのかげを
そうそうと風のふくなり
時はたそがれ
母よ 私の乳母車を押せ
泣きぬれる夕陽(ゆふひ)にむかつて
轔々りんりんと私の乳母車を押せ
赤いふさある天鵞絨びらうどの帽子を
つめたきひたひにかむらせよ
旅いそぐ鳥の列にも
季節は空を渡るなり
淡くかなしきもののふ
紫陽花いろのもののふる道

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