芭蕉 発句 雅舟 添句
055 あらたふと青葉若葉の日の光 東照宮はほどほどに去る
061 有難き姿拝まんかきつばた 餓鬼つばたでは宗鑑あはれ
076 いざ行かむ雪見にころぶ所まで 童心晒す風狂の人
086 石山の石より白し秋の風 半分、青し。春風駘蕩
106 芋洗ふ女西行ならば歌詠まむ 秋陽に晒す眩しきかひな
120 憂き我をさびしがらせよ閑古鳥 郭公八方響き渡る日
139 馬に寝て残夢月遠し茶のけぶり 西行の古歌小夜の中山
267 菊の香や奈良には古き仏たち 据ゑ置くだけの粋な計らひ
306 草の戸も住み替る代ぞ雛の家 桃の節句も近づく庵
314 草臥れて宿かる頃や藤の花 うち捨て難き旅の具多し
424 五月雨の降り残してや光堂 かすかな蛍火値千金
489 須磨寺や吹かぬ笛聞く木下闇 敦盛遺愛の青葉の美笛
542 父母のしきりに恋し雉の声 高野はもののあはれなる春
553 塚も動けわが泣く声は秋の風 連句一座に一笑見えず
620 夏草や兵どもが夢の跡 遠く遥けし矢叫びの声
642 奈良七重七道伽藍 浮き立ちてゆく九重の臣
660 蚤虱馬の尿する枕もと その上苦虫かみつぶすほど
669 芭蕉野分して盥に雨を聞く夜かな 茅舎の感に独り耐え抜く
779 文月や六日も常の夜には似ず デート前日気もそぞろなり
788 古池や蛙飛び込む水の音 一瞬にして元の静寂
811 ほととぎす鳴くや五尺の菖草 あやめも知らぬ恋もする夏
833 眉掃を俤にして紅粉の花 末摘花の熱き唇
847 道のべの木槿は馬に食はれけり 馬酔木ならねば心配無用
902 やがて死ぬけしきはし見えず蝉の声 他人事ならず無常迅速
933 行く春や鳥鳴啼き魚の目は泪 何も語らぬ春愁の花
944 義朝の心に似たり秋の風 殺戮非業愁殺哀史
946 吉野にて桜みせうぞ檜笠 乾坤無住同行二人
951 世にふるも更に宗祇のやどり哉 深みゆくなり幽玄の境
971 若葉して御目の雫ぬぐはばや 鑑真潮風で盲目となる
芭蕉発句 門人 付句
002 青くても有るべきものを唐辛子 提げておもたき秋の新鍬(洒堂)
013 秋近き心の寄るや四畳半 しどろに伏せる撫子の露(木節)
035 紫陽花や薮を小庭の別座舗 よき雨あひに作る茶俵(子珊)
041 あつみ山吹浦掛けて夕涼み 海松刈る磯に畳む帆莚(不玉)
043 あなむざんやな甲の下のきりぎりす ちからも枯れし霜の秋草(享子)
069 生きながら一つに氷る海鼠かな ほどけば匂ふ寒菊の菰(岱水)
063 ありがたや雪をかをらす南谷 住程人の結ぶ夏草(露外)
072 いざ子供走りありかん玉霰 折敷に寒き椿水仙(良品)
079 十六夜はわづかに闇の初め哉 鵜舩の垢を架ゆる渋鮎(濁子)
122 鶯の笠落したる椿かな 古井の蛙草に入声(乍木)
124 鶯や餅に糞する縁の先 日も真すぐに昼の暖か(子考)