芭蕉「菊」の句に寄せて

  松尾芭蕉×剣持雅舟『芭蕉との対話』より短連歌

菊鶏頭切り尽しけり御命講 しきびあげたれば済ませるお会式

菊に出でて奈良と難波は宵月夜 会ふ人毎にかすかなる笑み

菊の香にくらがり登る節句かな はじかみ入れて菊酒を飲む

菊の香や奈良には古き仏たち 据ゑ置くだけの粋な計らひ

菊の香や奈良は幾世の男ぶり イケメン業平垣間見る人

菊の香や庭に切れたる靴の底 陶淵明の垢煎じ飲む

菊の露落ちて拾へば零余子かな 珠芽を食べれば長寿を保つ

菊の後大根の外更になし 役者不足を補ふ人参

菊の花咲くや石屋の石の間 舗装の割れ目にも咲く野菊

寒菊や粉糠のかかる臼の端 芭蕉の目指す軽みの極致