五月の花橘を君がため玉にこそ貫け散らまく惜しみ 大伴坂上郎女『万葉集』
さつき来ば鳴きもふりなむ時鳥まだしきほどの声を聞かばや 伊勢『古今集』
さつき待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする 不明『古今集』
空晴れて沼の水嵩を落さずはあやめも葺かぬ五月なるべく 西行『山家集』
うちしめり菖蒲ぞかをるほととぎす鳴くや五月の雨の夕暮れ 藤原良経『新古今集』
君見れば五月の空にあらはるるほしいままなる雲とおぼゆれ 窪田空穂
あまがへる鳴きこそいづれ照りとほる五月の小野の青きなかより 斎藤茂吉
妻子を遊びにやりて、庭の樹の五月の風を眼を閉ぢて聴く 土岐善麿
五月の風松にとよもす園の中羊歯若くして水の流るる 土屋文明
外にはずむ木々のみどりを圧すなして五月まひるの吾子のうぶごえ 木俣修