寺山修司の10首歌

海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり

売りにゆく柱時計がふいに鳴る横抱きにして枯野ゆくとき 

すでに亡き父への葉書一枚もち冬田を越えて来し郵便夫

桃いれし籠に頬髭おしつけてチエホフの日の電車に揺らる

マッチ擦るつかのま海の霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

そら豆の殻一せいに鳴る夕母につながるわれのソネット

夏帽の屍をひきてゆく蟻一匹どこまでゆけどわが影を出ず

大工町寺町米町仏町老母買う町あらずやつばめよ

言い負けて風の又三郎たらむ希いをもてり海青き日は

わがカヌーさみしからずや幾たびも他人の夢を川ぎしにして