森川義信「勾配」に寄せて
愛とは心の傾斜にほかならぬと誰が言ったのか。その斜面に立っているのは、自然を、人を、愛することにおいて過剰でありすぎた青年の姿であった。現実の傾斜、時代の傾斜は、遥かな地平とはげしく交叉し、青春の苦闘は空しく非運のうちに終りを告げようとしていた。それでもなお、彼は、自然を、人を愛することをやめないのである。これは「しっかり掴んでいるその根は何か?」という「荒地」的な問いに対する彼の見事な回答であった。 (鮎川信夫)
令和四年 戦後七七年 森川義信没後八十年
森川義信 香川県観音寺市出身 戦没詩人 昭和十七年八月十三日
ビルマミートキーナにて戦病死