高等学校現代文(筑摩書房)『演習国語Ⅱ』では、森川義信の代表作「勾配」が載せられている。 〔参照〕 詩人・鮎川信夫「死んだ男」
勾配 森川義信
非望のきはみ
非望のいのち
はげしく一つのものに向かって
誰がこの階段をおりていったのか
時空をこえて屹立する地平をのぞんで
そこに立てば
かきむしるように悲風はつんざき
季節はすでに終わりであった
たかだかと欲望の精神に
はたして時は
噴水や花を象眼し
光彩の地平をもちあげたか
清純なものばかりを打ちくだいて
なにゆゑにここまで来たのか
だがみよ
きびしく勾配に根をささへ
ふとした流れの凹みから雑草のかげから
いくつもの道ははじまってゐるのだ
〔余説〕この作品の生まれた頃、時代は太平洋戦争の始まる気運があった。
在京在学中に生まれた死で、親友鮎川信夫ほか「荒地」仲間に高く評価されていた。
やがて、森川は退学、帰郷〔郷里香川)、徴兵でビルマに出兵〔真珠湾攻撃を知るのはその途中ベトナム付近)その後ミートキーナで戦病死。戦後『森川義信詩集』を鮎川が身代わりに出版。