深き淵より

 
 父は本願寺第7世・存知、蓮如はその庶子。本戯曲は蓮如39歳から始まり、本願寺8代目法主になり、波瀾に富んだ中年を経て56歳の春までが描かれている。生涯に4人の妻と死別し、5人の妻を娶る。子は男13人、女14人生まれても早世する子が多かった。シンプルに簡略化を余儀なくされる舞台劇の脚本。二度目の妻蓮祐が蓮如の抱かれて息を引き取るところが本作品のクライマックスとなっている。阿弥陀さまの声が聞こえるお浄土へ往く。ト書き…蓮如、突っぷし嗚咽する。
 その時、あの御文(いわゆる「白骨の御文章」)がしたためられる。「…人間のはかなきことは、老少不定のさかひなれば、…」(暗転)混迷の今、「蓮如」に学べ、ということで前進座で舞台化され、各地で上演された。行き詰まった近代合理主義に対する「解毒剤」にもなるだろうか。虚妄の繁栄にすぎない表層の裏に深淵が隠されていることを悟りたい。