宣長と源氏 二

『恋と女の日本文学』丸谷才一
 
 著者の評論「恋と日本文学と本居宣長」で次のように言っている。失恋の経験が宣長に『源氏物語』を読み取る目を与えた。この物語は淫乱の書ではない。不倫を教え、あるいはそれを訓戒する書でもない。むしろ人生の最大の出来事である恋の実相を遍く書き分け、その悲しみ、苦しみ、哀れさを描いたものである。恋とは文字の上だけの空言ではなく、実際の人間の生存そのものを左右する大事であり、それが『源氏物語』に詳しく書かれている。宣長はそう読むべきだと主張しているとみている。