大空に散った青春

別冊歴史読本『特攻作戦』
 
 終戦直後「君の名は」を演じた岸恵子が、戦後60年を過ぎて「特攻の母」を演じ、時の流れを痛感させられる。食堂を切り盛りする鳥浜トメは惜しみない愛情を注ぎ、隊員たちからも母親の用意に慕われる。さまざまな想いを抱いて大空に飛び立っていく若き特攻隊員たち。

俺は、君のためにこそ死ににいく」と言い残して行った、その特攻最前基地の町内金剛寺歩く、鹿屋、国分、串良、万世、指宿、宮崎…まだその地の鎮魂の碑にぬかづいたことのない人は、本書でささやかな供養をすることもできよう。

 写真だけではなく、なぜ日本軍は特攻作戦に踏み切ったのか、特攻作戦を生んだ日本軍の戦略思想「特攻の思想」を問題にする。大西瀧治郎中将が告げた史上初の必死作戦、神風特別攻撃隊「敷島隊」、国民的ヒーローになった五軍神。、昭和19年10月31の新聞に神風隊・鍛へしこの闘魂、仰がん神鷲・体当りの若櫻」と報じられる。隊員個々人の素顔を紹介している。

 B29を撃墜した後生還し、話題となったのが、244戦隊の中野松美伍長である。当時を回想して「特攻隊員に選ばれたときは、やった、バンザイ、と叫んだものでしたが、一人になると、やはり人間ですから、どうしたら死ねるか思い悩んだものでした」と語っている。

 人間魚雷「回天」の戦い、海上特攻「震洋隊」の孤独な戦い。戦艦「大和」、沖縄特攻に出撃する。本書は執拗に特攻の実態を多角的に追求し、軍神の母関サカエ他「特攻の証言」関行男大尉他「特攻長官と指揮者」多種多様な「日本軍の特攻兵器」など。どのページも隅々まで読み、雄々しくも空しく散った若者たちを記憶にとどめたい。