万葉「黄葉」の歌

  『万葉集』巻十より  ~黄葉(もみち) を詠める~
2178 妻籠る矢野の神山露霜ににほひそめたり散らまく惜しも
2179 朝露ににほひそめたる秋山に時雨な降りそありわたるがね
2180  九月 のしぐれの雨に濡れとほり春日の山は色づきにけり
2181 雁が音の寒き朝明の露ならし春日の山をもみたすものは
2182 このごろの 暁露に我が屋戸の萩の下葉は色づきにけり
2183 雁がねは今は来鳴きぬ 吾 が待ちし黄葉早継げ待たば苦しも
2184 秋山をゆめ人懸くな忘れにしそのもみち葉の思ほゆらくに
2185 大坂を 吾 が越え来れば二上にもみち葉流る時雨降りつつ
2186 秋されば置く白露に我が門の浅茅が 末葉色づきにけり
2187 妹が袖巻向山の朝露ににほふ黄葉の散らまく惜しも
2188 もみち葉のにほひは繁し然れども妻梨の木を手折り挿頭さむ
2189 露霜の寒き夕への秋風にもみちにけりも妻梨の木は
2190 我が門の浅茅色づく 吉隠の浪柴 の野の黄葉散るらし
2191 雁が音を聞きつるなべに高圓の野の上の草ぞ色づきにける
2192 我が背子が白妙衣ゆき触ればにほひぬべくも 黄変つ山かも (
2193 秋風の日に 異に吹けば水茎の岡の木の葉も色づきにけり
2194 雁がねの来鳴きしなべに龍田の山はもみちそめたり
2195 雁がねの声聞くなべに明日よりは春日の山はもみちそめなむ
2196 しぐれの雨間なくし降れば真木の葉も争ひかねて色づきにけり
2197 いちしろく時雨の雨は降らなくに 大城 山は色づきにけり
2198 風吹けば黄葉散りつつすくなくも吾の松原清からなくに
2199 物 思 ふと隠ろひ居りて今日見れば春日の山は色づきにけり
2200 九月の白露負ひてあしひきの山のもみちむ見まくしもよけむ
2201 妹がりと馬に鞍置きて生駒山うち越え来れば黄葉散りつつ
2202 黄葉する時になるらし月人の桂の枝の色づく見れば
2203 里は異に霜は置くらし高圓の野山づかさの色づく見れば
2204 秋風の日に異に吹けば露しげみ萩が下葉は色づきにけり
2205 秋萩の下葉もみちぬ荒玉の月の経ぬれば風をいたみかも
2206  真澄鏡南淵山は今日もかも白露置きて黄葉散るらむ
2207 我が屋戸の浅茅色づく吉隠の夏身の上に時雨降るらし
2208 雁がねの寒く鳴きしよ水茎の岡の葛葉は色づきにけり
2209 秋萩の下葉の黄葉花に継ぎ時過ぎゆかば後恋ひむかも
2210 明日香川もみち葉ながる葛城の山の木の葉は今し散るらし
2211 妹が紐解くと結びて龍田山今こそ黄葉はじめたりけれ
2212 雁がねの寒く鳴くしゆ春日なる三笠の山は色づきにけり
2213 この頃の暁露に我が屋戸の秋の萩原色づきにけり
2214 夕されば雁が越えゆく龍田山しぐれに競ひ色づきにけり
2215 さ夜更けて時雨な降りそ秋萩の本葉の黄葉散らまく惜しも
2216 故郷の初もみち葉を手折り持ちて今日そ吾が来し見ぬ人のため 
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2217 君が家のもみち葉早く散りにしは時雨の雨に濡れにけらしも
2218 一年にふたたび行かぬ秋山を心に飽かず過ぐしつるかも
 
 *「黄変つ」は「もみつ=黄葉(もみじ)する」の意。