母恋歌(10 首歌)

明治生まれ母は戦争未亡人三人の子を育てすぐ逝きし

母逝きて半世紀経つ創作の核となりたる一人の女

天才の一葉女史に及ばねど一人静かな明治の女

子に孫に着せる物など縫物をいつもしていた明治の女

気分よき時は句集を共に見しかの病室のベッドの恋し

押入れの母の残せし襤褸包みいつやら嫁に捨てられてをり

立秋の夜より虫は鳴くと言ひし母を想ひて虫の声聞く

「燈ともせばただちに障子打つうんか」ははの名句を思ひだしをり

田植後は疲れて数日寝込みたる母ひ出す田植機の今

人様を思ひやる心深かりし母は時経てなほ星明り