孤児収容所

 

   永井隆著『この子を残して』より

 この子は孤児となったら、だれの手もとに引き取られて育てていただくであろうか? ――
 こんな幼い子供だから、人さまの世話にならないで生きてゆけぬことは確かである。今でもたくさんの友人が後は見てくれると申し出ているし、叔父さんたちも、引き受けるから大丈夫だと約束してくれている。しかし今時の財産は来年どうなるものやら当てにならず、親切なお方だって、ぽっくり明日死なぬともかぎらず、安心して頼めるものはまずないというのが本当であろう。このことは、一瞬にして妻と財産を失っている私がいちばんよく知っている。
 けれども、とにかくどこかで、だれかに、なんとか養っていただくことになるだろう。ひょっとすると孤児収容所に入れられるかもしれない。
 孤児収容所……ああ、私は寒気がしてきた。あんな所へこの子が入れられたら……。
 全国の孤児収容所の子供の逃亡率は半分以上だとのことである。半分以上の子供たちは、逃げ出しては捕らえられ、入れられてはまた飛び出すという。ラジオや新聞で、「浮浪児狩り」という言葉が用いられた。狩るとは野獣に対して用いる言葉である。いつの日か私の誠一やカヤノが野獣扱いを受けるのであろうか? ――ああ! そして逃亡を防ぐため裸にしておかれるのであろうか? 鉄格子をはめた部屋に入れられるのだろうか? ああ「収容」という言葉の冷たさよ。