花は盛りにのみ見るものかは(徒然草)

【 花は満開の時だけ見る物ではない】

 花は盛りに、月は隈なきをのみ、見るものかは。雨に対ひて月を恋ひ、垂れこめて春の行衛知らぬも、なほあはれに情深し。咲きぬべきほどの梢、散り萎れたる庭などこそ、見所多けれ。歌の詞書にも、「花見にまかれりけるに、早く散り過ぎにければ」とも「障る事ありてまからで」なども書けるは「花を見て」と言へるに劣れる事かは。花の散り、月の傾くを慕ふ習ひはさる事なれど、殊にかたくななる人ぞ、「この枝、かの枝散りにけり。今は見所なし」などは言ふめる。 徒然草』137段 

 ☆直接にあひあふよりはひそかにも恋ひ慕ふこそ情深けれ