島比呂志の詩「燈明」についての考察
【構成】
4連34行からなる現代詩。制作日は平成10年(1998年)1月4日。初出は『火山地帯』114号(1998年4月1日)。後に『凝視 島比呂志詩集』(2003年7月1日)に所収されている。
数少ない故里を題材にした詩の一つである。
この詩の4連は起承転結のみごとな構成になっている。
第1連(6行)が起。おじいさん・おばあさんの昔語り形式で、対比・対照の妙。しかし、おじいさん(作者の分身)に感情移入して懐旧の詩として後連に続く。
第2連(14行)が承。前半は子供の用事として集落の5ヶ所にある小宮に燈明をつけに行く恐怖が語られる。後半はその中の一つ、「荒神さん」の「楠の下蔭の闇」が「途方もなく深い神秘」であったと思い起こす。
第3連(8行)が転。それに反して「エネルギーの乱費」等、現代文明・人類の危機を激しく訴える。単に懐古の詩に終わらない社会派の作者が如実に頭をもたげる。
第4連(6行)が結。「エネルギーを消費しない」闇に棲む神に「地球の救い主」を感じる。この感受性の鋭さが作者をして詩人ならしめている。少年の日は闇を〈畏怖〉していたにすぎなかったかもしれないが、今は闇を〈畏敬〉している。「おじいさんの中の子供」は「贖罪の燈明を捧げ続けている」と意味深長に歌い収めている。
【主題】
少年の日の風景として「燈明」をあげた「神秘の闇」を老年の今、現代失われている「闇=神」に対する〈畏敬〉の念の大切さを訴えている。
言い換えれば、今我々は【贖罪の燈明】を〈無明の闇〉に捧げ続けなければならない。
島 比呂志(しま ひろし、1918年7月23日 - 2003年3月22日)は、日本の小説家。本名、岸上薫(きしうえ かおる)東京農林専門学校(現・東京農工大学)助教授として教壇にたつ。1947年、ハンセン病を発病し、国立療養所大島青松園に入所、翌年国立療養所星塚敬愛園へ転園。作家として活躍、同人誌「火山地帯」を主宰。1995年7月、事務局長池永満弁護士のもとに手紙を出し、らい予防法の国家賠償法訴訟の切っ掛けとなる。
◎作家島比呂志の代表作品『奇妙な国』
療養所を小さな国とみなして、その国の奇妙な様態を風刺している。日本国はこの小さな国では滅亡こそが国家唯一の大理想である。日本国は子孫を作らないために男性の精管を切り取ることを条件に衣食住と医療を補償すると明記した。