生命の詩としての蛙

『蛙』草野心平
 
 好き嫌いがありますので、蛙の生態の写真集などでないのが幸いです。46編の詩はすべて蛙が主人公の詩、メルヘンですよ。

「ごびらっふの独白」…るてえる びる もれとりり がいく。ぐう であとびん むはありりんく るてえる。(日本語訳)幸福といふものはたわいなくっていいものだ。おれはいま土のなかの靄のやうな幸福につつまれてゐる)これは最初の2行ですが、後20行続きます。蛙語の日本語訳詩ですから、恐れ入りますね。

「春殖」…るるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる(「る」が30続いています。「誤植」ではありません。ワープロで「ろ」を押さえていると「ろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ」と30はすぐ出て来ても詩にはなりませんが…)実に意表を衝いた(生殖の)表音詩であり、(卵の)表象詩ではありませんか。

 まだまだ驚いてはいけません。
「冬眠」…● これだけです。文字ではありません。黒丸一つだけ…これには参りましたね。でも、蛙が丸くなって冬眠しているのに、何の説明が要りましょう。

巻末には「蛙・祈りの歌」の楽譜が載せられています。
 「草野心平 詩 深井史郎 曲」となっています。合唱曲です。

洒落を通り越して、人が蛙(かへる)に「還(かへ)る」ような気がしてなりません。どうしてもこの詩集を一度手にしてください。  (蛙に還った者より心をこめて)