変わる

 
 
 五八一号  変わる  剣持雅澄
 
 この世は無常だと言う。言い換えれば、常に変わっていく。「変動」するものとして総括し、ここに動詞十種の十倍=百通りに分類することもできる。
動揺(運動・動揺・振動・傾斜・転倒・回転・滑り・弾み・翻り・浮動)、移動(移動・旋回・進退・通過・渡り・接近・指向・昇降・飛翔・流動)、離合(離合・混合・交錯・接触・付着・接続・並列・集散・堆積・下垂)、出没(出し入れ・抜き差し・埋没・見え隠れ・露出・包囲・開閉・浮沈・浸透・注ぎ)、変形(変形・破壊・伸縮・拡大・曲折・起伏・角立ち・縮まり・畳み・巻き)、変質(変質・凝固・乾燥・濃縮・清濁・美化・色付き・腐敗・強化・散乱)、増減(生成・残存・増減・加除・満ち欠け・過不足・補充・総括・包含・限定)、情勢(情勢・勢い・発生・成否・興亡・盛衰・進歩・変動・混乱・緊張)、経過(経過・過程・開始・到来・断続・存廃・進捗・進み・繰り上げ・短縮)、関連(関係・独立・対応・本末・因果・影響・均衡・適合・類似・勝り)
 以上、鮮やかにまことしやかに整理分類しているようだが、語彙はこのような形式にまとまるはずがなく、屈折し入り組んでいるのが、言葉というものである。
 実例として個々の動詞の二三を挙げてみよう。
「変わる」にもいろいろな使い方がある。
「変質」として、異なった性質のものになる。
「変動」として、違った状態になる。                               
「変革」として、物事が以前と違ってくる。
「相違」として、物事が普通と違う。
 発音は「かわる」でも、漢字で書き分ける。
「変わる」以外にも「代わる」「替わる」「換わる」と使い分けるのもやっかいである。
「代わる」は、あるものが占めていた所を他のものが占める。「父に代わって言う」          
「替わる」は、互いに替わり合う。「社長が替わる」
「換わる」は、物をやり取りして引き換える。「金に換わる」
 話し言葉では気遣いも要らないが、書くとなるとよほど意識しないと間違ってしまう。「異字同訓」の漢字の用法は難しく、国語審議会漢字部会は、その参考資料として、前述のようなものを発表している。児童生徒が自ら学べることではなく、国語担当教師が懇切丁寧に教えるべきことであろう。保護者も共に国語くらいは日常使用の書き言葉として子供といっしょに勉強したらいいのではないかと思う。漢字を知らなくても、日常会話に支障はない。
 しかし、パソコンに「かわる」と打ち込んで、出てくる漢字は「変わる」「換わる」「替わる」「代わる」さてどれにするか、それは文脈・前後関係がものを言う。自分の判断力が要る。どれが適するのか考えるところに意味がある。一つ一つを丁寧にこつこつ使い方を会得していかなければならない。日本人ならだれも経なければならない、国語の基礎力養成過程である。
 明日の准看護学院の国語練習問題は、次のような問題を作成している。
次の「かえる」を漢字に「書きかえなさい」
書面をもって挨拶にかえる。観点をかえる。名義を書きかえる。かえ歌。顔色をかえる。物を金にかえる。貸し出し図書を借りかえる。畳の表をかえる。別の車に乗りかえる。出発点にかえる。場所をかえる。正気にかえる。スイッチを切りかえる。贋物と摩りかえる。ボートがかえる。軍配がかえる。無事にかえる。卵が雛にかえる。
これらの中には「変」「換」「替」「代」ではすまされないものが入っている。これらに付け加えて「返る」「反る」「帰る」「還る」「孵る」という漢字も使わなければならなくなっている。
 次々と持説持論がかわっていくには賛否両論があり、かの「君子豹変」が政界の討論でよく槍玉に挙げられたり、自己弁護に使われたりする。
 これはあながちどちらがいいとは言えない。変革なきところに進歩はない、まず自分が変わらなければ人は変わってくれない。華麗に変身する人があり、柔軟な思考ができる人がある。
しかし、一口に変わるのがいいとは言えない。ひたすら孤塁を守り、自説を熟成して他になきものを創生することにもなる。たとえ頑固片意地と言われても、自分に忠実に生きることにおいてしか新たなる発見も創造も生まれてこない。
自己を変に変えようとしない変人にこそ奇跡は芽生える。