「勾配」とは
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1 水平面に対する傾きの度合い。傾斜。また、斜面。「勾配の急な坂道」「勾配を登る」
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2 数学で、直線の方向を示す数。直線がx軸の正の方向となす角の正接で表される。傾き。方向係数。
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3 物理学で、速度・圧力など
の大きさが位置によって変化するときの変化率。 で表される。勾配ベクトル。グラジエント。 -
森川義信の「勾配」
- 戦後の現代詩「荒地」のさきがけとも言われる詩 である。
- 勾 配 森川義信
- 非望のきはみ ※非望=かなえられないほどの野望
- 非望のいのち
- はげしく一つのものに向かって
- 誰がこの階段をおりていったのか
- 時空をこえて屹立する地平をのぞんで ※屹立(きつりつ)=聳え立つ
- そこに立てば
- かきむしるように悲風はつんざき
- 季節はすでに終わりであった
- たかだかと欲望の精神に
- はたして時は
- 噴水や花を象嵌し ※象嵌(ぞうがん)=金属に模様をはめ込む
- 光彩の地平をもちあげたか
- 清純なものばかりを打ちくだいて
- なにゆゑにここまで来たのか
- だがみよ
- きびしく勾配に根をささへ
- ふとした流れの凹みから雑草のかげから
- いくつもの道ははじまってゐるのだ
親友鮎川信夫の絶賛したことばを紹介しなければならない。
「わずか十八行の短詩だが、さっと一読しただけで、私は、目がくらむような思いがした。何度も繰り返して読んだが、感動の波は高まるばかりであった。」これはこの詩を原稿で初めて読んだ鮎川信夫の感想であった。
タイトル「勾配」の含蓄もさることながら、冒頭「非望」二回の繰り返しが作者のお気に入りで、印象を強める。かなえられない「野望」を意味するこのことば。「絶望」ではない、前向きに、しかも下降線をたどる傾斜ではあるが、何であるかは明示されない。自分の人生か、歴史か時代か、どこか暗く落ち込んでゆく予感がある。「勾配」とは平坦ではない前途であろう。それを鋭くキャッチしようとする詩人の霊感で、それでも活路を見つけて人はそれぞれに【生きる道】を見つけねばならないという【光明志向】でこの詩は救われている。