「森川義信」信奉

  1.  水平面に対する傾きの度合い。傾斜。また、斜面。「勾配の急な坂道」「勾配を登る」

  1.  数学で、直線の方向を示す数。直線がx軸の正の方向となす角の正接で表される。傾き。方向係数。

  1.  物理学で、速度・圧力など物理量の大きさが位置によって変化するときの変化率。ベクトル量で表される。勾配ベクトル。グラジエント。

  2.  戦後の現代詩「荒地」のさきがけとも言われる詩 である。
  3.     勾 配     森川義信
  4.  非望のきはみ                                        ※非望=かなえられないほどの野望
  5.  非望のいのち
  6.  はげしく一つのものに向かって
  7.  誰がこの階段をおりていったのか
  8.  時空をこえて屹立する地平をのぞんで   ※屹立(きつりつ)=聳え立つ
  9.  そこに立てば 
  10.  かきむしるように悲風はつんざき 
  11.  季節はすでに終わりであった
  12.  たかだかと欲望の精神に 
  13.  はたして時は
  14.  噴水や花を象嵌し            ※象嵌(ぞうがん)=金属に模様をはめ込む
  15.  光彩の地平をもちあげたか 
  16.  清純なものばかりを打ちくだいて 
  17.  なにゆゑにここまで来たのか
  18.  だがみよ
  19.  きびしく勾配に根をささへ 
  20.  ふとした流れの凹みから雑草のかげから 
  21.  いくつもの道ははじまってゐるのだ

親友鮎川信夫の絶賛したことばを紹介しなければならない。

「わずか十八行の短詩だが、さっと一読しただけで、私は、目がくらむような思いがした。何度も繰り返して読んだが、感動の波は高まるばかりであった。」これはこの詩を原稿で初めて読んだ鮎川信夫の感想であった。

 タイトル「勾配」の含蓄もさることながら、冒頭「非望」二回の繰り返しが作者のお気に入りで、印象を強める。かなえられない「野望」を意味するこのことば。「絶望」ではない、前向きに、しかも下降線をたどる傾斜ではあるが、何であるかは明示されない。自分の人生か、歴史か時代か、どこか暗く落ち込んでゆく予感がある。「勾配」とは平坦ではない前途であろう。それを鋭くキャッチしようとする詩人の霊感で、それでも活路を見つけて人はそれぞれに【生きる道】を見つけねばならないという【光明志向】でこの詩は救われている。